水素脆性とは?原理、危険性とベーキング処理による対策について

水素脆性とは

水素脆性とは水素原子が金属に吸蔵され金属の「靭性」が落ちてしまうことです。靭性とは強度(粘り強さ)のことです。強度が落ちるため重大なトラブルを引き起こしてしまいます。この水素脆性は硬度が高い素材に発生することが多く高い引張強さを持つ素材や高張力鋼に多い現象です。具体的にはHRC40以上と考えられています。 この水素を吸蔵しやすい金属は水素脆化感受性が高いと呼ばれることがあります。

水素吸蔵の原因

水素脆性とは、金属の内部に水素が吸蔵され靱性が低下してしまうことですが、そもそもなぜ水素が内部にたまるのでしょうか? それはめっき加工の前処理工程に原因があります。水素原子は原子の中で最も小さく、他の金属に入り込むことは容易です。そのため酸洗や電気脱脂を行うと、鉄の溶解や、水の電気分解によって水素が生成されるプロセスが多く水素が吸蔵されてしまいます。

水素脆性の危険性

水素脆性の危険性は「遅れ破壊」にあります。遅れ破壊とは日常で何もきっかけがないのに突然金属材料が破断することです。破断するまでの変化が全くなく「壊れそう」などといった変化を見つけることができません。 金属は硬さでは石やガラス等といった材料に負けます。しかし強みとして力を受けると形状を変化させたり、衝撃を吸収し破壊を止める性質を持ちます。この金属特有の強みが靱性と合わさり金属の強度となっています。しかしこの機能面は水素脆性が起こることで変化が分からなくなる為、効果を発揮できなくなります。

水素が脆化する原因

では水素が金属に吸蔵されなぜ脆化(遅れ破壊)が起こるのでしょうか? 実は原因は現状はっきりとわかってはいません。水素が脆性を起こす原因として‘‘言われている‘‘のは「水素原子が集まり分子となることで素材の内部圧力が高まるため」であったり、「集まった水素原子が、鉄同士の結合を防ぐため」という説があります。 わかっているのは水素が前処理段階で素材に入り込み、統計学的に脆化を起こす素材で比較的多いのが水素原子が入る前処理をした金属加工製品であるということです。

引用:東京工業大学名誉教授 小林英男 「高圧水素環境の水素誘起割れのメカニズム」3章(6)(7)

水素脆性の対策

水素脆性の問題は表面処理において無視はできません。その対策となるものも幾つか存在します。
前提としてめっき加工には被膜の密着性、加工後のムラをなくすために前処理を行います。その際「酸処理」を行いますが、扱う酸濃度が強いほど水素を吸蔵しやすくなっております。
そのため、できるだけ低濃度の酸を使うこと、短時間で処理を終わらせることが挙げられます。
中でも特に効果があるのが「ベーキング処理」という後処理になります。

ベーキング処理とは

水素脆性への対策のなかでも効果的な処理がベーキング処理となります。吸蔵された水素を素材製品から除去することが目的の脱水素処理です。他にも脱脂工程には研磨剤を吹き付けて行うブラスト法や水蒸気法といった物理的な方法もあります。
ベーキング処理の具体的な方法として約200℃の高温でめっき部品を8~24時間加熱し、水素を追い出します。また素材に応じて温度、処理時間を変える必要があります。
例えば、めっきの被膜が厚いと水素が通過しづらいため処理時間は長くなります。また加熱により強度が変化してしまう素材だと温度を下げ処理時間を長くします。

このように素材に合わせて処理時間、温度を変え脱水素処理を行うことで水素脆化を未然に防ぐことにつながります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はめっき加工において無視できない「水素脆性」について説明しました。完成した製品が水素脆性を起こすと重大なトラブルになりかねません。原因が断定できていないものの「ベーキング処理」を行えば未然に防ぐことができます。

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